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札幌簡易裁判所 昭和41年(ハ)260号 判決 1968年8月05日

原告 株式会社丸富商会

被告 国 外一名

訴訟代理人 岩佐善已 外四名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、

「被告国は後記目録記載の土地について札幌法務局昭和二五年四月二五日受付第九八四一号の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

被告山田は後記目録記載の土地について札幌法務局昭和二七年四月四日受付第九五二五号の所有権移転登記の抹消登記手続をなし、かつ原告に対し右土地を引渡せ。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求め、被告国の指定代理人ならびに被告山田の訴訟代理人はいずれも主文同旨の判決を求めた。

原告訴訟代理人は、請求の原因としてつぎのとおり述べた。

「一、後記目録記載の土地(以下本件土地という)は原告の所有なるところ、訴外白石農地委員会は昭和二四年一一月二四日右土地について自作農創設特別措置法三条一項一号にもとづく農地買収計画を樹立し、公示したので、原告はこれに対し異議訴願を申立てたがいずれも容認されず、結局被告国は昭和二四年一二月二日を買収の時期とする買収令書を昭和二七年四月二七日原告に送達してこれを買収し、これを原因として請求の趣旨第一項の所有権移転登記を経由した。

二、被告国は、昭和二七年三月三一日被告山田に対し体件土地を自作農創設特別措置法第一六条の規定による売渡をなし、これを原因として請求の趣旨第二項の所有権移転登記を経由した。

三、そこで原告は、右買収を不服として昭和二九年五月二六日処分庁である北海道知事を被告として札幌地方裁判所に買収決定取消の訴を提起した。右訴訟は昭和三二年三月二六日原告が敗訴したが、二審の札幌高等裁判所においては昭和三九年一一月三〇日原告勝訴の判決が言渡され、該判決は同年一二月一五日確定した。

四、右のとおり本件土地の買収処分取消判決の確定により本件土地の所有権は自動的にもとの所有者たる原告に帰属することになり、買収処分の有効なることを前提とした売渡処分も当然無効である。しかるに被告山田は本件土表を占有している。そこで原告は所有権にもとづき被告等に対しそれぞれ前記所有権移転登記の抹消登記手続をすることを求めるとともに、被告山田に対し本件土地の引渡しを求める。」

被告山田の訴訟代理人は、請求原因事実をすべて認め、抗弁として、被告は本件土地につき売渡の時期を昭和二七年三月三一日とする同年四月三〇日発行北海道知事の自作農創設特別措置法一六条の規定による売渡通知書の交付を受け、同年七月一七日国に対し対価を納入し、本件土地は適法有効に被告の所有に帰したものと信じて疑わず、爾来平穏かつ公然にこれを耕作占有を続け現在に及んでおり、その占有の始め善意にしてかつ過失がなかつたから、売渡処分が無効であつたとしても、前記昭和二七年七月一七日から一〇年の経過によつて本件土地の所有権を時効によつて取得した。したがつて原告が本件土地の所有権を有することを前提とする本訴請求は失当であると述べた。

原告訴訟代理人は、被告山田が昭和二七年七月一七日以降本件土地を占有していることは認めるが、その主張する取得時効は次の事由により完成していないと述べた。

「一、本件土地を含む附近一帯約六万坪の土地は北海道炭礦汽船株式会社の定年退職者および離職者のために住宅を確保する目的をもつて設立された訴外白石土地住宅組合が昭和三年ころこれを取得し、国庫の補助の下に苗穂方面に通ずる道路を設け、橋梁を架け、電燈を引き、衛生設備を施し、測溝を堀り、住宅に適する道を作り、宅地としての区画割をして昭和八年ころより宅地として分譲されるに至り、原告会社は昭和一六年ころ右組合から本件土地を住宅地建設の目的で買受け引続き宅地化の計画を進め、本件買収計画が定められた昭和二四年一一月当時は戦争および戦後の事情特に食糧事情のため前記土地に野菜等が栽培せられ、定年者も復職する者が多く建築資材も欠乏して住宅の建築ははかばかしくなかつたけれども、近い将来住宅地となることが期待されていたものであり、被告山田も充分これを了知していたものである。しかるに被告が本件売渡処分により本件土地が被告の所有に帰したものと信じたとすれば、かく信ずるにつき過失があつたものというべきである。

二、仮に被告が占有の始め善意にしてかつ過失がなかつたとしても、取得時効は中断された。即ち行政処分に対する不服申立方法は右処分の取消訴訟を行うことが適法にしてかつ唯一の方法であり、しかも被買収者の勝訴判決の効力はその土地に対する被売渡人にも及ぶものであるから、原告が提起した前記買収処分取消請求の訴が被売渡人である被告山田を直接相手方としないものであつてもその訴の提起により当然被売渡人の時効は中断しているものである。」

被告国の指定代理人は、原告主張の請求原因事実はすべて認める。しかし被告山田において取得時効を援用しているところ、特別の事由なきかぎり国から農地売渡を受けた者の無過失は認めらるべきであるので、もし右主張が認容された場合には、原告においては、もはや所有権を主張できないから、被告国に対する請求は失当として棄却されるべきであると述べ、なお、相被告山田の主張を援用すると述べた。

<証拠関係省略>

理由

原告主張の請求原因事実は全部被告等の認めるところである。本件土地に対する買収処分が無効であることが判決により確定された以上、これが有効なることを前提要件としてなされた売渡処分はその取消をまつまでもなく当然無効であり、したがつて、かような売渡処分にもとづいて被告山田が本件土地の所有権を取得するいわれがない。

ところで、被告山由は本件土地について一〇年の取得時効を援用するので、この点について検討する。同被告か昭和二七年七月一七日以降本件王地を継続して耕作し、これを占有していることは、当事者間に争いがなく、右占有は所有の意思をもつて善意、平穏かつ公然にされたものと法律上推定されるところであつて、右と反対の事実はこれを認めるにたりる証拠がない。つぎに買収農地の売渡しを受けてこれを耕作している者は、当該売渡処分が無効である場合であつても、特段の事情のない限りその占有をはじめ善意、無過失であつたと認めるのか正当なるところ、本件においてこれに該当すると認められるほどの特段の事情の存在は、本伴全証拠によるもこれを認めるにたりない。

原告訴訟代理人は、原告が昭和二九年五月二六日前記買収処分の取消を求める訴を提起したことにより被告山田の本件土地に対する取得時効は中断したと主張する。しかし、取得時効の中断事由である民法一四七条にいう請求とは、権利者が時効によつて利益を得ようとする者に対して、その権利内容を主張する裁判上および裁判外の行為を指称するものと解すべきであり、しかも取消訴訟の原告は取消を求める行政処分又は裁決に関連する原状回復の請求を、取消訴訟と併せて、もしくはこれと別個に提起することができるのであり、このことは行政訴訟特例法の施行時においても同様であつたから、かかる関連請求の訴の提起を怠り取消訴訟のみを提起した者に対し、ことさらに前記の一般解釈を拡張して保護を与える必要は認められない。このことは民法一六二条二項の適用についても全く同様である。原告の右主張は採用すべき限りでない。

そうすると、被告山田は昭和二七年七月一七日から一〇年の経過とともに本件土地の所有権を時効によつて取得し、反面原告はその所有権を喪失したものというべく、同被告の時効の抗弁は理由がある。

よつて所有権にもとづく原告の本訴請求はいずれも失当なること明らかであるから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 恵木春松)

目録<省略>

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